井上明さんを偲んで

井上明さんが去る2月13日、東京都内の病院にて逝去され、ご葬儀が近親者のみにて17日、都内のご自宅にてしめやかに執り行われた(享年89歳)。

井上さんは東京海上日動火災保険のグアムにおける総代理店であるNanboの社長を長く務められるとともに、グアム日本人会の会長を2回6年務められ、グアム日本人会の誕生・発展に大きく寄与された。2000年にはグアム議会からグアム経済への貢献が認められ、顕彰決議を受けるとともに、2010年にはその功績から日本政府より旭日単光章を受勲された。

1968年に設立され、東京海上日動の総代理店業務をその事業の中核とするNanboは、井上さん、南洋貿易、グアムのA家、サイパンのT家の四者によるジョイント・ベンチャーで、井上さんの出資比率はむしろマイナーだったが、資本構成はともかく、Nanboは井上さんの質実剛健な経営理念が隅から隅まで浸透した、文字通り「井上さんの会社」だった。実は「総代理店」というのは、保険会社から見るとサイフをまるごと他人に預けるようなもので、保険会社と代理店を担う店主との間によほど強い相互信頼の関係がないと成り立たない。私が井上さんと初めて直接のつながりを持ったのは、東京海上日動のグアム駐在員としてだったが、保険会社と代理店は相互にWIN-WINの関係でなければならないとのお考えが徹底しておられ、むやみに売り上げを追うのではなく、保険引き受けにあたっては、リスクを慎重に見極められ、当時、5年ほどの周期でグアムに襲来した台風によって保険会社として被った損害について、それを取り戻すのが、自分の務めだとおっしゃっておられ、学ぶべき点が少なくなかった。

晩年は記憶力の衰えに苦労されていたのだが、Nanboのオフィスへたまにお越しになられるときは、必ず帰り際に「今日、ボクは傘とかバッグなんかを持ってこなかったっけ?」と念押しされるところがいかにも井上さんらしいな、と思ったものだ。

奇しくも、昨秋、井上さんのNanbo社長時代、その右腕として活躍されたMさんが都内でお亡くなりになられた。また、Nanboと保険会社の関係も、コーポレートガバナンスあるいはリスク管理の視点から大きく変わろうとしている。井上さんが亡くなられたことで、一つの時代が終わったような気がする。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

投稿者 守屋 悦男

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